付言事項
付言事項とは
遺言書の内容は、法的効力のある法定遺言事項と、法的効力のない付言事項に分けられます。
法定遺言事項は、身分に関すること、財産に関すること、相続に関すること、のおおまかに3つになります。
付言事項に法的効力がないのであれば必要ないように思われるかもしれませんが、とても重要な役割を負っているのです。
付言事項とは、相続人に残したい言葉などを伝えられるものです。
法定遺言事項は、故人の遺志の結果を表しています。
「妻にこれ」「長男にはこれ」「次男にはこれ」など、結果だけを比較したら不公平と思うこともあるかもしれませんが、なぜそのような結果になったのかという過程は、それだけではわかりません。
付言事項は、その過程を表すものです。
遺言書はなくても、相続人は相続して財産を受け取ることはできます。
しかし、自分の死後はこうしてほしいという思いがあるからこそ、遺言書を作成するわけです。
遺言書の内容によっては、相続人の相続する財産が減ることもあります。
それをすべての相続人が承知していれば問題はありませんが、死後に初めて遺言書の存在を知ることがほとんどでしょう。
遺言の内容に承諾できない相続人が遺留分の請求をすることも考えられます。
また、遺留分の請求まで至らなかったとしても、その後の家族の関係が悪化する恐れもあります。
そこで、付言事項を用いて遺言を作成した経緯や思いを伝えると、相続人の理解を得やすくなるのです。
付言事項に入れたほうがいい項目6つ
付言事項は、基本的には何を書いてもかまいません。
ここでは、付言事項に入れたほうがいい項目について、ピックアップしています。
家族への感謝の気持ち
法定遺言事項があれば、遺言書は成立します。
しかし、家族への感謝の気持ちを付言事項に書いておくと、遺言書として家族にとっての特別なものにすることができます。
遺言の動機
なぜ遺言を作成しようと思ったのかという理由を書いておくと、遺言の内容について相続人からの同意が得られやすくなります。
心配なことがあって、看過できないということを、共有することができます。
財産配分の意図や理由
法定相続の持分と異なる配分がされた場合、当然相続人は不思議に思います。
金銭的な価値だけでは、説明できないところがありますので、配分の意図や理由についても書きましょう。
遺品の処分方法
財産として扱われない遺品もあります。
例え金銭的価値がなくても、故人や家族の思いの詰まった遺品は大切にしたいものです。
葬儀方法
葬儀方法については、宗教、寺院、喪主、参列者、会場、お墓、埋葬、法事など、遺族に指示します。
遺された家族への希望や願い
臓器提供や献体については、家族の同意が必要になります。
いくら故人の遺志とはいえ、亡くなってからではどうすることもできません。
また、ただ単に家族の幸せを祈ったり、仲良く暮らしてほしい、母の面倒を頼む、などという願いも含まれます。
付言事項作成のポイント6つ
感謝の気持ち
付言事項で、もっとも大切なのは感謝の気持ちを伝えることです。
感謝の気持ちから遺言を作成したことを具体的に書くと、遺言への理解も得やすくなるでしょう。
何を書いてもいいのですが、ネガティブな内容はできるだけ避けましょう。
否定的な表現で、遺言によって遺族の関係がギクシャクしかねません。
遺言作成の経緯
どういう考えで、遺言を作成したのかを伝えます。
事業の後継、祭祀の承継、財産の相続、財産の遺贈など、決定した理由がわかれば相続人も納得できるというものです。
相続人にとっては遺言書によって持分が減ることもありますので、不平不満は少なからずあるでしょう。
しかし、遺言作成の経緯が明確であれば、故人の遺志を尊重してくれるはずです。
生前贈与、特別受益の存否
相続時精算課税制度ができて、生前贈与が行いやすくなりました。
贈与は生前の意思で行われるものですが、他の相続人からみれば不公平になるのは当たり前です。
生前贈与、特別受益については、相続のトラブルの原因になりかねませんので、クリアにしておかなければなりません。
法定遺言事項との整合性
付言事項は法的効力がありませんので、どのように書いても遺言執行には問題はありません。
しかし、法定遺言事項と付言事項で整合性がなければ、相続人は何を尊重していいのかわからなくなります。
相続を円滑に行うための遺言書ですので、法定遺言事項との整合性は守りましょう。
財産以外のこと
財産以外のこととなると、死後事務があります。
葬儀方法、臓器提供、献体の意思表示、遺品の処分方法などです。
注意しなくてはならないのは、葬儀方法、臓器提供、献体については、死後直ちに執り行うものです。葬儀後に遺言書を開いた、ということも起こり得ます。
そのようなことにならないために、これらについてはあらかじめ遺言の内容を家族に伝えておく必要があります。
付言事項の事例
私は春子というよき伴侶と3人の素直なよい子供たちに恵まれて,しあわせな人生を送ることができたと心から感謝しています。
春子には2人で築いた住まいの土地と建物を残すことにしました。気兼ねなく,ゆっくりと老後を過ごしてもらいたいためです。
この土地と建物だけで遺産の2分の1をはるかに超えると思いますが,3人の子供たちはお母さんに対して遺留分を請求することのないようにしてください。いずれは3人のものになるのです。
夏男と秋男には大学を卒業するまで父親としてできるかぎりの援助はしたつもりですが,冬子には私の会社が倒産したり,その他いろいろな災難があったりして,大学にも行かせてやれなかったばかりか,私の長患いのために介護の苦労までさせてしまい,申し訳なく,心苦しく思っています。冬子に対して夏男や秋男よりも多くの現金を残してやることにしたのはそういう気持ちからです。みな理解してください。
春子,夏男,秋男そして冬子,よい人生を本当にありがとう。
私は,自分が設立し,経営してきた春秋工業株式会社を長男夏男に継いでもらいたいと切に願い,そのことを中心にこの遺言書を作戒しました。
本文の一で,株式の55パーセントを長男夏男に相続させることにしたのは,夏男に会杜の経営権を与えるためです。議決権の過半数を制する者が会社の経営の実権を握ることになるからです。専務の山田一郎に5パーセントの株式を遺贈することにしたのは,創業以来長年にわたって会社を支えてきてくれたことに対する感謝の気持ちと,今後も会社のために尽カしてもらいたいと願う気持ちからです。
本文の二で,社屋と敷地を春子と夏男に均等に相続させることにしたのは,会社の安定を図るためです。不動産は,後々のことを考えると,共有関係にするのは好ましくないのです。できれば夏男一人に相続させようかとも考えたのですが,税金のことを考えて,こういう配分にしました。
本文の三で,会杜に対する貸付金を免除し,いわば借金を棒引きにしたのは,会社の債務を減らし,利息の負担をゼロにして少しでも会社の資産内容をよくしたいと思ったためです。この免除益は会社の雑収入に計上され,法人税の対象になりますが,会杜の累積赤字はこの程度の債務免除で解消することはないので,決算で黒字が計上されることはありません。しかしその分,1株当たりの資産価値が高くなります。実際にどのような評価額になるかは,顧問税理士の山川三郎先生にきいて,その指導に従って処理してください。
この遺言は,会杜の存続を第一に考えて作成したものです。不満のある者もいるかもしれませんが,会祉存続のため我慢してください。
長男夏男と長女冬子に特に言い残しておきたいことがあります。
2人がまだ幼いころのことです。私はお母さんに家出をされてしまいました。私が毎目朝から晩まで仕事に追われていて夫婦の間に会話がなかったことなど,反省すべき点はいろいろあります。お母さんはある人を好きになってしまい,その人が転勤になると,幼い子供のお前たちを置いて出て行ってしまったのです。
私は仕事とお前たちの世話で心身とも追いつめられてしまい,お母さんには戻ってきてくれるように伺度も連絡しましたが,なしのつぶてで,やがて所在もわからなくなってしまったのです。そんな私を見かねてお前たちの世話をしてくれるようになったのが春子でした。
以来,40年の歳月が経過しました。
春子は自分の腹を痛めた子供ができるとどうしても我が子のほうに愛情が行ってしまうのが怖いと言って,白分の子供を作ろうとはせず,愛情のすべてをお前たちに傾けて育て上げたのです。
お母さんとは離婚しようと思ったのですが,話し合いをしようにも所在がつかめないので,そのままになってしまいました。
夏男と冬子の2人は春子が穏やかな老後を過ごすことができるよう協力してください。春子には親兄弟もいません。私から受け継いだ財産はお前たち2人に残すと言っています。
以上が私の最後の言葉です。くれぐれも春子を悲しませるようなことだけはしないでください。お願いします。
妻である春子には最後まで本当に苦労をかけました。長年にわたり連れ添ってくれたことを、大変感謝しています。そこで、春子には現在暮らしている住み慣れた家と土地を譲りたいと思います。長男の夏男は、母さんの面倒をよろしく頼みます。家族の思い出がいっぱいに詰まった我が家でいつまでも幸せに暮らしてください。これが父の最後のお願いです。くれぐれも体には気を付けて。父は天国で君たちを見守っています。
この遺言は、長年にわたり長男の嫁である冬子さんの苦労に報いるためにしたものです。わずかではありますが、冬子さんには私の気持ちだと思って、受け取ってもらいたいと思います。冬子さんには、私の介護をお願いすることになり大変な苦労をかけしました。冬子さんがいつもやさしく介護してくれたことには、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。他の相続人は不満もあるかと思いますが、私の意を汲んで遺言の内容を遵守してくれることを希望します。決して遺留分の請求をすることのないよう、よろしくお願いします。
長男の夏男は大学を卒業した後、帰省し長年に渡り私とともに家業である農業に従事し、その発展に大きく貢献してくれました。本人も引き続き先祖代々の土地で農業経営を続けていく希望があり、それは私の希望でもあります。これからの農業を思うと、よく決心してくれたと思います。夏男には、本当に感謝しています。私は夏男に事業を継いでもらいたいと考え、すべての財産を相続させることにしました。農業経営を考えると事業資金としては、十分とは言えないので、他の相続人は遺留分を請求することのないようお願いします。家族みんなが仲良く暮らしていくことを、心から願っています。
私の葬儀は、家族だけで済ませて下さい。妻の春子には本当に感謝しています。子供たちもそれぞれ立派になって、将来の生活の不安もありません。みんないい子に育ちました。そんな家族に看取られたいものです。ですから、家族に大きな負担は掛けたくないと思っていますので、穏便に家族だけでささやかな葬儀を済ませて欲しいのです。子供たちには、母さんのことを最後までよろしく頼みます。いつまでもみんなの幸せを願っています。
遺言者は、没後○○県○○市○○町○丁目○番○号○○寺に納骨されることを希望する。葬儀、埋葬、法事については、住職○○僧侶に依頼してあるので住職の指示に従うこと。財産については、遺言のとおりとし、家族がこれからも仲良く暮らすことを願う。
私は妻の春子と3人の素直なよい子供たちに恵まれて、幸せな人生を送ることができました。心から感謝しています。春子には住宅の土地と建物を残すことにしました。気兼ねなく老後を過ごしてもらいたいからです。この土地と建物だけで法定相続分を超えると思いますが、3人の子供たちはお母さんに対して遺留分を請求することのないようにしてください。いずれは3人のものになるのです。子供たちには父親としてできるかぎりの援助はしたつもりですが、長女の冬子には私の病気のために介護の苦労までさせてしまい、申し訳なく、心から感謝しています。冬子に多くの現金を相続したのは、そういう気持ちからです。不満もあるでしょうが、理解してください。
私亡き後の財産については、その一部を、○○○○に遺贈寄付することにしました。私の気持ちを理解していただき、家族が仲良く暮らしてくれたらと思います。また、相続手続きがスムーズに行くように、遺言執行を○○弁護士に頼みました。子供たちもみな県外で家庭を持ち、妻には相続事務は負担が大きいと心配してのことです。○○弁護士とは旧知の仲で、事情もよく説明していますので、信頼して任せてください。
私の遺産は妻と長男に相続させるほか、長男が入所している社会福祉法人○○○○に遺贈寄付します。知的障害を持つ長男のことだけが気掛かりですが、施設で寄付を活用していただけたら幸いです。社会福祉法人○○○○のさらなるご発展を願っています。
平成○○年に長男○○が自宅を購入した際に、私は○○○万円を住宅資金として贈与しました。財産の配分については、生前贈与を考慮して、このような配分としました。また、以前から支援している特定NPO 法人○○○○に遺贈寄付することにしました。私の熟慮のうえでの配分ですので、皆さん気持ちよく受け取ってください。
1.遺言者(以下「私」と言います)は、妻春子、長男夏男、次男秋男とその家族が仲良く幸せな人生を過ごしてくれることを切に願い、この遺言書を作成しました。
2.妻春子には長い間苦労を掛けましたが、いつも明るく私や家族を支えてくれたことに大変感謝しています。今ある財産は、ひとえに春子の内助の功により築くことができたと思います。私は仕事を優先させ、家事育児にはほとんど協力できませんでした。それでも、春子は子供たちを立派に育て上げ、家庭を守ってくれました。したがって、私の財産はすべて春子に相続させることにしました。
長男夏男には、大学を卒業してから、私の右腕として、会社の経営を支えてもらいました。すでに会社の運営は任せてありますが、後継者として、会社と従業員をよろしく頼みます。
次男秋男には、住宅資金として生前贈与しています。幸せな家族を持ち、生活にも心配がないことから、この遺言では財産を分けません。
私の財産をすべて妻春子に相続させることにしたのは、二人ともそれぞれ家庭を持ち、私亡き後も、母さんと同居することは難しいと思われることから、母さんが一人ででも平穏な暮らしが送ることができるよう考慮したものであることをご理解ください。また万一、母さんにもしものことがあったら、二人でよく相談してこれからのことを決めてください。これからも、兄弟仲良く助け合っていって下さい。
3.以上のような思いから熟慮に熟慮を重ね、この遺言書を作りました。遺留分を侵害する内容になっているかと思いますが、どうか減殺請求などせずに遺言書のとおり相続していただきたいと願っています。
4.みんな、今までありがとう。これからも仲良く幸せに過ごしてください。
姪の秋子には、身の周りの世話をお願いし、大変感謝しております。子供たちが遠くで生活しているため、近くにいる秋子に頼ってしまいました。秋子も本当の親のように、とても親切にしてくれました。遺言者がこのように生活できてきたのは、秋子のおかげといっても過言ではありません。お世話になった秋子に全財産を引き継ぎますので、私の気持ちを理解してください。二人とも安定した生活で、何も心配はありません。どうか誰も争わず、遺留分減殺請求権の行使や遺言者の財産の分配等を請求しないで下さい。
遺言書の作成・相続手続きは当事務所へ
当事務所では単に遺言書を作成するだけではなく、遺言者の状況や想いを踏まえたうえで一人一人にあった遺言書の作成をサポートしています。いつでもお気軽にご相談ください。